昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十)  有りうるべからざることだった

2014-02-21 20:32:34 | 小説
(六)

“冗談じゃない、そんなことは許されん。
母親なら、こんな無茶は言わないだろうさ”

心内で舌打ちしながら、とに角話を切り上げにかかった。

「ありがとう、先生。一生、恩に着ます。
お母さんから話をして頂きます。
お母さんだって、きっと私と同じ気持ちだと思います」

嬉々として立ち去る小夜子、母親を説得するべく病室に向かった。

病に罹った患者にとって、医師は神のような存在だ。
医師の言葉は絶対であり、疑義を挟むことなどありえない。

有りうるべからざることだった。

病を治してくれと懇願する家族は居ても、
一日でも長い存命を願う家族は居ても、
安らかな最期をと願う家族は居ても、
死期を早めることになってもやむを得ぬ、
生きた証しを持たせたいと願う家族など居ない時代だった。


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