長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第一部～ （二） それが自然の法則というものだ

彼にはわからない。美しく咲き誇っている花の寿命を縮めてまで、何故活け花をするのか。
しかし彼の父親は言う。

「それで良いのだ、それが正しい」

「全ての自然は、我々人間の為のものだ。美しく活けようとする心は正しい。
男は仕事に全てを費やし、女はそんな男の為に美しく着飾るのだ。それが自然の法則というものだ」

彼の心に、父母のそんな言葉が走馬燈のように駆け巡った。

「ねえっ、タケシ。あなたは素敵な青年よ。二枚目だし、背も高いしさ。自信持っていいのよ。
今さら言うのも変だけど、お姉さんは滅多に抱かれないのよ。
タケシだから、な・の・よ。
確かにね、ケンちゃんに『慰めてやってくれ』とは頼まれたけれどさ、
『筆おろしをしてやってくれ』とは言われなかったわ。
もっとも、嫌な奴なら頼まれても断るけど、ね。だから、もっと自信を持ちなさい」

ユミの真剣な眼差しから発せられるその言葉は、彼の心に強く響いた。
何かしら、重くのし掛かっていた霧のようなものが薄れていく思いだった。
ユミの、”好きだったのかも？　よ”という言葉を鵜呑みにすることはできない。
しかし、わだかまりが少しずつとけ始めたように感じた。