昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (一)坂田カネの

2024-08-07 08:00:45 | 物語り

 坂田カネの三十三回忌もなんとか終えまして、会食に入ったときのことでした。
とつぜんのちん入事件が起きたことは、先ほどお話しましたとおりです。
妙齢のご婦人がお迎えにみえて、ことは終わったと皆さん安堵されました。
老人が立ち去ったあと、まだ夕方前だというのに辺りが薄暗くなってきました。
天気が予想よりはやく崩れてきているのでしょうか。
夜半になってから雨が降るという天気予報でしたので、皆さん
「傘を持ってきてないのに」「車で来ているから送らせるわよ」などとかまびすしいことに。

「料理が冷めてしまいましたが、どうぞ故人を偲びながらお食べいただけると幸いです」
という喪主の松夫さんの声かけで、ガヤガヤとおしゃべりが始まりました。 
 未だに澱んだ空気が部屋全体をおおっています。
タバコの煙があちこちから漂っており、開けはなたれた雪見障子から庭先へと流れでました。
そしてその煙が庭先の空にのぼり終えたときに、廊下から変になま暖かい風が入りこんできたのです。
なにごとかと皆さんの視線が庭先にむきました。

 そのときです。
白装束のご婦人が、「みなさま失礼いたします」と現れたのです。
そうなのです、とつぜん廊下に、出現したのです。
皆さん口にはしませんでしたが、奥から歩いてこられたということもなく、ましてや玄関先からではありません。
第一玄関先は閉じられていますし、少々立て付けの悪くなっているガラスの引き戸です。
ガラガラ、ガタピシャといった音がします。
そのような音を聞き漏らすはずもありません。

 先ほどのご婦人に顔立ちが似ておられる女性でした。
万が一にもご老人の奥方ということになれば、もうお亡くなりになっているはずです。
ゾクゾクッと、背筋に悪寒が走りました。
まさか……幽霊? と、身構えもしたのです。
失礼しました、冗談です。
「あんたは面白みがない。すこし隙をつくらなきゃ。冗談のひとつも言ってみろよ」
 同僚に、酒の席でよく説教されますので。
もとより幽霊などといったものを信じているわけでもなく、遠いご親戚筋の女性か? と、正直思ったのですが。

 ところが、
「わたくし、梅村小夜子と申します」と告げられます。
どよめきが起こるなか、淡々と話をつづけられます。
「いまこの場にまいりましたのは、夫の正夫だけの話では片手落ちでございます。
わたくしの言い分をも、ぜひにもお聞きいただこうと思った次第です」
と、憤まんやるかたないといった表情でつづけられます。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿