「そうか、やっぱりな。あいつが好きなんだ、お前。
よしよし、俺が話をつけてやるよ。
なあに、大丈夫。あいつだって、まんざらでもないと思うぜ」
「ええっ、こまるよ、それは。ぼくは、今のままでいいんだから」
「いいから、いいから。それでもな、はじめの頃のおまえは、イヤな奴だったらしいぞ。
最近は、見直したみたいだ。
そう言えば、この間ひとりで早く帰ったろう。
その時に『どうして今日は来ないのか』って、聞いてたぜ。
これは、脈ありだナ。うん、うん」
「違うんだ、そんなことじゃないんだ。ちがうんだ」
「なにが違うもんか。いや、じつを言うと、俺の気になる子というのがそいつさ。
お前にその気があれば、と思ってたんだ。
よしよし、さっそく明日にでも話をしてやるよ。
でないと、おれも困るしさ。ハハハ、これは愉快だ、ハハハ」
「違うんだ、だめだよ。そんなことされたら、ぼくがこまる。
いや、きみに悪いから、ということじゃない。だめなんだよ、まだ」
真面目派は、必死になって抗弁した。
今のままで交際したとしたら、すぐに幻滅されてしまう、そう考えていた。
もうすこし、自分を高めたいと思っていた。
しかし、そんな抗弁もヒネクレ派にはとどかなかった。
「照れるナ!」と言いのこして、走りだした。
不意に込みあげてきた熱いものを、隠すようにはしった。
ヒネクレ派は、この真面目派が好きだった。
その不器用さが好きだった。
〝たかが女ひとりの為に、この友情をこわしてたまるか!〟という、気持ちが強かった。
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