昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(九)の五

2011-06-09 20:07:35 | 小説
「チェッ!
ケチなだけじゃないか。
情けは人の為ならず、
っての知らねぇの?」
「減らず口の多い子ね。
あそこの子みたいに、
靴磨きでもやりなさい。」
「いろいろ事情があって、
簡単なことじゃないんだよ!」
「事情、
って何よ。」
年端も行かぬ子ども相手に
ムキになっている小夜子を、
可愛いく感じる正三だ。
“やっぱり、
17才なんだ。”と
納得する正三だった。

「役割があるんだよ。
親方の指示通りにやんないと、
まずい事になるんだよ。」
ふてくされた表情で、
口を尖らせた。
「ほら、
ごらんなさい。
やっぱり、
親方がいるじゃないの!」
子ども相手に言い負かしたところで、
仕方がないと思う正三だった。
それに親方のことなど、
ひと言も言っていなかった筈だ。
と、
子どもの目に、
うっすらと涙が浮かんできた。
グスグスと半べそをかきはじめた。
その涙を見た小夜子が
「分かったわよ。
ほらっ、
泣くのやめなさい。」と、
お札を取り出した。
驚いたのは、
正三だ。
きつく正三を窘めた小夜子が、
施しをしたのだ。
しかも、
札をだ。
正三は硬貨を握り締めていたのに。


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