昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(九)の四

2011-06-08 22:17:40 | 小説
駅を出たとたん、
年の頃十二三才の見すぼらしい恰好をした男の子が、
正三のシャツを掴んできた。
「何だい、坊や。
何か、用かい?」
「おいら、
みなしごなんだ。
恵んでおくれよ。」
やせ細った腕が、
日々の生活を物語っているように見えた。
「妹にね、
いもでも食わせてやりたいんだ。
少しでいいからさ、
恵んでおくれよ。」
目のぎらつきが、
正三の胸に突き刺さったた。
「そうか、
妹に食べさせてやりたいのか。
分かった、
ちょっと待ってな。」
ポケットから財布を取り出す正三を、
小夜子は慌てて制した。

「止めなさい、
正三さん。
その子の為にならないわ。
この後ね、
いっつも他人からの施しを当てにするようになるわ。
努力しない子にね。」
本音のところは、
正三の持ち金が減ってしまうことが許せないのだ。
「なるほど。
天は自ら助くるものを助く、
ですね?
福沢諭吉だったか・・。
他力本願はだめだ、
と言うことですね。」


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