(五)
突如竹田の母の手を握り
「お母さん、ありがとう。これですっきりしました。
モヤモヤが少しあったけれど、もうすっかり取れました。
もうこれで、正三さんを思い出すこともないでしょう」
と、晴れ晴れとした表情を見せた。
「ええ、ええ」
と、満足げに頷く竹田の母だ。
小夜子の穏やかな顔に、とりあえず安堵する竹田だった。
かやの外に置いてけぼりの観があった勝子だが、輝くばかりの小夜子を眩しく感じた。
「決めた。あたし、小夜子さんを見習うわ。
小夜子さんのように、強く生きるわ。
小夜子さんのように、新しい女で生きるわ。
一度きりの人生ですもの、後悔したくないわ」
その日の夕方、勝子が駄々をこねた。
勿論今までにもありはしたが、今日は一段と激しい。
「もう元気になっているんだから、このまま退院してもいいじゃないの。
病院暮らしは、もういや! だってこんなに体調が良いのよ。
気分爽快よ、ほんとに。ねっ、小夜子さん。
あなたもそう思うでしょ? あたし、元気よね?」
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