昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(七十九) お箸を進めてください

2014-02-01 11:45:23 | 小説
(四)

「小夜子奥さま、小夜子奥さま。もう結構でございます。
勝利も悪気があってのことではございません。

大恩ある小夜子奥さまを見ましたから、怒ったのでございます。
ささ、お箸を進めてください。お食事にお呼びしたのに、とんだことになってしまいました」

もうこの話は終わりだとばかりに満面に笑みを浮かべて、箸をつけるように勧めた。

「母さん。小夜子奥さまは、もう社長の奥さまになられたんだ。
昔のことなんかほじくり返しちゃだめなんだ。」

小夜子に叱られたことが強く堪えている竹田。
どうしても己の真意を伝えたいとばかりに、母親の意向を無視してしまう竹田だ。

「いいのよ、竹田」
小夜子にしても、このまま終わってしまうことには、判然としない。
聞かされただけで終わってしまっては、小夜子の面目が立たないと思っている。

「良いお話だったじゃない。それで得心がいったわ。
あれ程に固いお約束を交わしたはずの正三さんの心変わりが。

やっぱりご本人の意思ではなく、周りの説得だったのね。
それに抗じ切れなかったのね、正三さん。そこまでの人だったのよ。

本当に結ばれる運命だったのなら、
そんな呪縛も振りほどいてあたしを迎えに来てくれたでしょうよ」


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