(七)
「小夜子。どうだろう、そろそろ。」
「なぁに、そろそろって。」
エプロンを身に付けた小夜子は、いつも機嫌がいい。
ルンルンとおさんどんに精を出している。
「うん。だからな、月が変わったらな……。」
歯切れの悪い武蔵の言葉。
「月が変わったら、なあに?」
「ご挨拶にな、行こうかと……」
振り向いた武蔵の眼前に、眉間に皺を寄せた小夜子がいた。
「挨拶って、なあに? 何しに行くのかな、タケゾーは。」
軽やかなトーンの声が、武蔵の耳に突き刺さる。
「いや、もういいかな、と。
茂作さんも、気をもまれているのじゃないかと、そう考えるんだが。」
「行ってきたら!」
冷たく言い放つ小夜子。
刺身を盛る手が震えている。
「お金ちょーだい!」
突然の嬌声に、思わず立ち上がった武蔵。
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