昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十三) 七

2013-01-05 10:26:14 | 小説

(七)

「小夜子。どうだろう、そろそろ。」
「なぁに、そろそろって。」

エプロンを身に付けた小夜子は、いつも機嫌がいい。
ルンルンとおさんどんに精を出している。

「うん。だからな、月が変わったらな……。」
歯切れの悪い武蔵の言葉。

「月が変わったら、なあに?」
「ご挨拶にな、行こうかと……」

振り向いた武蔵の眼前に、眉間に皺を寄せた小夜子がいた。
「挨拶って、なあに? 何しに行くのかな、タケゾーは。」

軽やかなトーンの声が、武蔵の耳に突き刺さる。
 
「いや、もういいかな、と。
茂作さんも、気をもまれているのじゃないかと、そう考えるんだが。」

「行ってきたら!」
冷たく言い放つ小夜子。

刺身を盛る手が震えている。
「お金ちょーだい!」

突然の嬌声に、思わず立ち上がった武蔵。


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