昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

鼠小僧次郎吉 ~さると猿回し~ 二十三

2010-08-29 15:00:49 | 小説
灯りのついた局に耳を当て、
中の様子を窺ってみた。

物音一つしない、
微かな寝息が聞こえるだけだ。

障子の敷居に油を流し、
音を立てずに開けた。
建具職人時代に覚えたことだ。

灯りが庭に洩れる。
次郎吉は、
すぐさま辺りを見回し、
物音を聞くために耳をそばたてた。

“ふっ。
みんな、
寝入っているな。”
そっと障子を閉じた。

女だてらに酔いつぶれた腰元五人が、
深眠していた。
乱れた裾から、
白いおみ足が覗いている。

帯を解いて、
伊達締め姿の腰元も居た。
次郎吉は、その醜態を一瞥すると、
“ふん”と鼻を鳴らした。

女好きの次郎吉ではあるが、
あの一件以来、
腰元に対しては
憎悪の念以外は持たなかった。

横たわる腰元達を避けながら、
棚の上の手文庫を開け、
中の小判を手にした。

どうやら、
腰元らの持ち金らしい。

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