昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十)  母になってくれたのです

2014-02-17 20:48:12 | 小説
(五)

「若くして母は、死にました。でも旅立つ少し前に、一時的に良くなったんです。
床から出ることができたんです。その時に初めて、母の化粧姿を見ました。

とても綺麗でした。今でも、はっきりと思い浮かべることができます。
そして食事を作ってくれました。一汁一菜の粗末な物でしたが、私にとっては宝です。

あの時だけ、母になってくれたのです。
我が子の為に、たった一度でも、母としての責務を果たせたこと、嬉しかったと思います。

後生です、先生。勝子さんに、生きてきて良かったと思える思い出を、どうぞ与えてください。
女としての喜びを感じさせてあげてください。

このままじゃ、勝子さん。
何のために生まれてきたのか、何にも残りません」

涙顔で訴える小夜子に、
「お母さんから、話をお持ちください」
と、困惑顔で医師が答えた。
小夜子のしつこさに辟易している観が見て取れる医師だった。


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