昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~通夜の席でのことだ~ (十六)

2016-02-11 08:54:51 | 小説
その次男にも大きな心残りがあった。
己の出生についてシゲ子に問い質せなかったことが、心のど真ん中にでんとあった。

激高しやすい次男に対して「定男おじさんに似てるわ」と帰り際にかけられた言葉が、次男の疑念を確証に変えた。
次夫の思いを知らぬシゲ子にしてみれば軽い冗談まがいの言葉だったが、次男は額面通りに受け止めてしまった。

長男が聞いた親戚たちの話を、次男もまた立ち聞きしていたのだ。
「道子さんもよう頑張るわ。実の子でもないのにねえ」

 そう言えば、と思い当たることが多々ある次男だった。
孝男の冷たい視線、道子からの厳しい叱責。

それらが次男を苦しめた。
自暴自棄になりかけた次男を、優しく押しとどめてくれたのがシゲ子だったのだ。

「人はね、それぞれに持っているものがあるのよ。
比較しちゃだめ。
ナガオにはナガオらしさがあり、あなたにはあなたらしさがあるの。

今いくつだい? 婆ちゃんの歳は知ってるかい? 
これから先、まだ何十年とあるんだよ。
どっしりと構えてなさい」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿