昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十六) 三

2013-09-16 11:58:59 | 小説
(三)

“生まれ故郷に足を……”と思ってみなかったわけではない。
五平の意がそこにあると分かってもいたが、
“苦しかった頃の想い出だけが残る地に行ったところで……”と考えた。

小夜子のはしゃぎように、武蔵は満足していた。

「若い娘のすることじゃない!」
と、武蔵と同じく浜に腰を下ろしている老人が咎める。

家人もまた、頷いている。
しかし武蔵は、目を細めて見ている。

“男の甲斐性は、浮気じゃない。
女房を幸せにすることが、本当の甲斐性だ。”と、武蔵は思った。

本気で、そう思った。
ただ、“その上での浮気は、男の本懐だ。その為に男は働くんだから。”とも、考えた。

「新婚旅行は、九州だ。
海は、どうだ? 海はいいぞ! 
ずっと沖を見ても、まるで陸地が見えん。

水が青いんだ。
でな、ずっと先を見ると、キラキラ光ってる。
まるで、銀の食器を並べているようだ。」



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