(六)
物陰からじっと見つめる茂作に気付いた小夜子だが、素知らぬ振りをして戸口を出る小夜子だ。
「行ってしまうのか、小夜子。
もう会えぬかもしれぬわしを置いて、行ってしまうのか。
いつお迎えが来るかも分からぬわしを置いて、行ってしまうのか」
気弱な言葉を吐きつつ、見送る茂作だった。
「ふふ。気が付いたかしら? 幸恵さん」
車中で、幸恵に問い掛ける。
「なにを、ですか?」
「お爺さまったら、声を掛けることもできずに。
あれで隠れていたつもりなのかしらね、丸見えだったわ」
「全然、気が付きませんでした。
でしたら、お声をおかけになればよろしかったのに」
思わず後ろを振り返ると、茂作らしき老人が道端に立っているように思えた。
しかし小夜子は、前を向いたまま後ろを見ようとはしなかった。
「だめだめ。知らぬ顔して、家の中に入ってしまうわ。
決して別れの言葉など、くれないから」
「でも……」
「いいのよ、いいの。また遊びに来るから。
お彼岸にお盆、そしてお正月にはお墓参りしたいから。
タケゾーが、そうしてやれって言ってくれてるから」
物陰からじっと見つめる茂作に気付いた小夜子だが、素知らぬ振りをして戸口を出る小夜子だ。
「行ってしまうのか、小夜子。
もう会えぬかもしれぬわしを置いて、行ってしまうのか。
いつお迎えが来るかも分からぬわしを置いて、行ってしまうのか」
気弱な言葉を吐きつつ、見送る茂作だった。
「ふふ。気が付いたかしら? 幸恵さん」
車中で、幸恵に問い掛ける。
「なにを、ですか?」
「お爺さまったら、声を掛けることもできずに。
あれで隠れていたつもりなのかしらね、丸見えだったわ」
「全然、気が付きませんでした。
でしたら、お声をおかけになればよろしかったのに」
思わず後ろを振り返ると、茂作らしき老人が道端に立っているように思えた。
しかし小夜子は、前を向いたまま後ろを見ようとはしなかった。
「だめだめ。知らぬ顔して、家の中に入ってしまうわ。
決して別れの言葉など、くれないから」
「でも……」
「いいのよ、いいの。また遊びに来るから。
お彼岸にお盆、そしてお正月にはお墓参りしたいから。
タケゾーが、そうしてやれって言ってくれてるから」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます