昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十九) 素知らぬ振りをして

2013-11-01 21:44:04 | 小説
(六)

物陰からじっと見つめる茂作に気付いた小夜子だが、素知らぬ振りをして戸口を出る小夜子だ。

「行ってしまうのか、小夜子。
もう会えぬかもしれぬわしを置いて、行ってしまうのか。

いつお迎えが来るかも分からぬわしを置いて、行ってしまうのか」
気弱な言葉を吐きつつ、見送る茂作だった。

「ふふ。気が付いたかしら? 幸恵さん」
車中で、幸恵に問い掛ける。

「なにを、ですか?」

「お爺さまったら、声を掛けることもできずに。
あれで隠れていたつもりなのかしらね、丸見えだったわ」

「全然、気が付きませんでした。
でしたら、お声をおかけになればよろしかったのに」

思わず後ろを振り返ると、茂作らしき老人が道端に立っているように思えた。
しかし小夜子は、前を向いたまま後ろを見ようとはしなかった。

「だめだめ。知らぬ顔して、家の中に入ってしまうわ。
決して別れの言葉など、くれないから」

「でも……」

「いいのよ、いいの。また遊びに来るから。
お彼岸にお盆、そしてお正月にはお墓参りしたいから。
タケゾーが、そうしてやれって言ってくれてるから」


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