五
「女将、女将、女将ぃ。
聞いてるか?
この佐伯正三くんはな、驚くなかれ、
恐れ多くもだ、次官様になられるお方なんだ。
我々とは、まるで違うお方なんだよ。」
「そうです、そうですよ。
我々の後輩ではありますがね、
突然にこの極秘プロジェクトに参入した、新人です。
でもね、佐伯局長の甥っ子さまであらせられる。
控えおろうぅ! ってな、もんです。」
ネクタイをねじり鉢巻にした二人が、口々に正三をもて囃した。
「まぁまぁ、そうですか。佐伯局長様の甥っ子様ですか。
いつも、佐伯様にはご贔屓にしていただいて、ありがとうございます。」
「女将、実は…今夜の……」
口ごもる正三に対して、
「まあまあ、みなまで仰いますな。
分かっておりますです、万事お任せあれえ、です。
どうぞ、心行くまでお遊びくださいまし。
もうそろそろ、芸者衆も来ますですし。」
したり顔で、女将が胸をポンと叩いた。
六
上座に座らされかしこまったままの正三は、女将に勧められるまま杯を空にした。
「よぉし、来た来たぁ。
さぁ、俺は歌うぞ。
お姉さん、お姉さん。トンコ節を頼むよ。
踊りぃ? いいよ、いい、そんなもの。
俺たちにゃ、分かんねえからさぁ。
お三味、お三味線を頼んますぅ。」
「よし、お姉さん。
わたしは、分かる、分かりますって。
踊りましょ、ね、踊りましょ。
無粋な奴は放っといて踊りましょ。
何てたって、ワルツです。
芸者ワルツだよ。ね、一緒に踊りましょ。」
戸惑う芸者に対し、三味線の調律を終えた婆が声を掛けた。
「お姉さん方、こちらは若手の官吏様たちですよ。
さぁさ、楽しくいきましょう。」
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