「いいか、すぐにも麗子を返せ! さもなければ、警察に訴えるぞ。
監禁罪だ、これは。どこだ、どこにいる!
頼むから、麗子を返してくれ、お願いだ」
そこには、麗子自慢の紳士は居なかった。
唯々、娘の安否を気遣う父親が居た。
スーツも、よれよれ状態だった。
返り襟に張りはなく、前身もしわがひどい。後ろ身頃など、めくれ上がっている。
ひと晩中、ソファで麗子を待っていたに違いない。
「妻は寝込んでしまった。私も、殆ど寝ていない。
一昨日電話が入った。すぐにも帰って来いと言ったのに。
初めてだ、麗子が、私に逆らうのは」
男は言葉がなかった。黙って聞き入るしかない。
「御手洗君、ちよっと!」小声で、総務課長が男を呼んだ。
拙いことになった、と思いつつも
「ちょっと失礼します」と、声をかけ席を立った。
「どうしたの、君。プライベートな問題で、ロビーを騒がせては困るよ」
「はあ、申し訳ありません。実は、中山麗子さんの父親でして」
「中山君? ああ、あの娘なら一昨日退職したよ。一身上の都合だといってね。
まあ、何か悩んでいるようだったが。で、どうしたの?」
男は、事の顛末を話すべきかどうか迷ったが、とりあえず分かっていることを話した。
交際はしていたが今は別れたことも話した。隠すわけにも行かなくなった。
「そう、家出したのか。ま、ここでは拙い。小会議室でも使いなさい」
と、総務課長の指示が出た。
一礼してコーナーに戻ってみると、麗子の父親はいなかった。
辺りを見回す男に、受付嬢が声をかけた。
「御手洗さん、あそこよ」と、肩を落としたまま歩を進める父親がいた。
慌てて後を追うと、「連絡が入りましたら、お知らせしますので」と、声をかけた。
しかし、返事はなかった。
監禁罪だ、これは。どこだ、どこにいる!
頼むから、麗子を返してくれ、お願いだ」
そこには、麗子自慢の紳士は居なかった。
唯々、娘の安否を気遣う父親が居た。
スーツも、よれよれ状態だった。
返り襟に張りはなく、前身もしわがひどい。後ろ身頃など、めくれ上がっている。
ひと晩中、ソファで麗子を待っていたに違いない。
「妻は寝込んでしまった。私も、殆ど寝ていない。
一昨日電話が入った。すぐにも帰って来いと言ったのに。
初めてだ、麗子が、私に逆らうのは」
男は言葉がなかった。黙って聞き入るしかない。
「御手洗君、ちよっと!」小声で、総務課長が男を呼んだ。
拙いことになった、と思いつつも
「ちょっと失礼します」と、声をかけ席を立った。
「どうしたの、君。プライベートな問題で、ロビーを騒がせては困るよ」
「はあ、申し訳ありません。実は、中山麗子さんの父親でして」
「中山君? ああ、あの娘なら一昨日退職したよ。一身上の都合だといってね。
まあ、何か悩んでいるようだったが。で、どうしたの?」
男は、事の顛末を話すべきかどうか迷ったが、とりあえず分かっていることを話した。
交際はしていたが今は別れたことも話した。隠すわけにも行かなくなった。
「そう、家出したのか。ま、ここでは拙い。小会議室でも使いなさい」
と、総務課長の指示が出た。
一礼してコーナーに戻ってみると、麗子の父親はいなかった。
辺りを見回す男に、受付嬢が声をかけた。
「御手洗さん、あそこよ」と、肩を落としたまま歩を進める父親がいた。
慌てて後を追うと、「連絡が入りましたら、お知らせしますので」と、声をかけた。
しかし、返事はなかった。
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