まだ明けやらぬ朝もやの中、プライドの高さをその薄汚れた白っぽいトレンチコートにほのめかせ、三十路の旅も半ばの男が足早に歩いている。
街灯の下でタバコに火を付けた。
険しかった表情もタバコを吸い込む度にほぐれてきた。
一つ一つのビルを確かめ、頷きながら歩いている。
ビル街には、カツーン・カツーンと響く男の靴音以外に物音一つしなかった。
ヒシヒシと押し寄せる孤独感は、否応なしに男をさいなめた。
今日は月曜日。
間もなくこのビル街の活動が始まる。足早に行き交うビジネスマンたちは、まだ集まりはしない。
が、あと二時間程もすればこのビル街が生命ちを吹き返すだろう。
一年前には、肩で風を切るビジネスマンとして闊歩した男だった。
男は大通りを横切るとキョロキョロと辺りを見回した。
落ち着かない仕種でタバコを投げ捨てると、狭い路地を右に左にと通り抜け、また大通りに出た。
その左に方向を取ると、その先に駅を見つけた。
冷たい朝もやをつんざくように、鋭く汽笛が鳴り響く。
腕時計に目をやったが、いつの間にか止まっていた。
"チッ!"と舌打ちをしながら、次第に焦点が合ってくる正面の時計に目をやった。
五時三十七分を指している。
新しいタバコに火を付けると、足早に駅に向かった。
そろそろ、新聞配達やら牛乳配達の自転車の音がしてくる。
男は急に喉の渇きを覚えた。
といって、まだ開いている店はない。
遠ざかる牛乳瓶のこすれ合う音を耳にしつつ、駅に辿り着いた。
とりあえず、待合室の長椅子に腰をおろした。
始発列車は、六時四十七分だった。
「まだ、一時間以上あるのか」
男の口から愚痴がこぼれた。
「とに角急ごう。間に合ってくれればいいが‥‥」
街灯の下でタバコに火を付けた。
険しかった表情もタバコを吸い込む度にほぐれてきた。
一つ一つのビルを確かめ、頷きながら歩いている。
ビル街には、カツーン・カツーンと響く男の靴音以外に物音一つしなかった。
ヒシヒシと押し寄せる孤独感は、否応なしに男をさいなめた。
今日は月曜日。
間もなくこのビル街の活動が始まる。足早に行き交うビジネスマンたちは、まだ集まりはしない。
が、あと二時間程もすればこのビル街が生命ちを吹き返すだろう。
一年前には、肩で風を切るビジネスマンとして闊歩した男だった。
男は大通りを横切るとキョロキョロと辺りを見回した。
落ち着かない仕種でタバコを投げ捨てると、狭い路地を右に左にと通り抜け、また大通りに出た。
その左に方向を取ると、その先に駅を見つけた。
冷たい朝もやをつんざくように、鋭く汽笛が鳴り響く。
腕時計に目をやったが、いつの間にか止まっていた。
"チッ!"と舌打ちをしながら、次第に焦点が合ってくる正面の時計に目をやった。
五時三十七分を指している。
新しいタバコに火を付けると、足早に駅に向かった。
そろそろ、新聞配達やら牛乳配達の自転車の音がしてくる。
男は急に喉の渇きを覚えた。
といって、まだ開いている店はない。
遠ざかる牛乳瓶のこすれ合う音を耳にしつつ、駅に辿り着いた。
とりあえず、待合室の長椅子に腰をおろした。
始発列車は、六時四十七分だった。
「まだ、一時間以上あるのか」
男の口から愚痴がこぼれた。
「とに角急ごう。間に合ってくれればいいが‥‥」
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