昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(三十五)の五と六

2012-04-28 18:05:34 | 小説


「ふぅん。お父さんって、どこに行っても、上客なんだね。
他のお客さんと、扱いが違うみたい。」

「まぁな。俺は紳士だからな。
敵に対しては容赦しないが、味方にはとことん応援する。」

「それって、お父さん。あたしに、言ってるの?
恩知らずって、思ってるんでしょ?

あたしだって、いろいろ考えてるから。
お父さんには、キチンとお世話になった分、お返しをするつもりだから。」

ポッと頬を染める小夜子だが、武蔵には酔いが回ったせいと映った。
“小夜子の奴、どこまで本気なんだ? 
夢物語りに聞こえはするが、ひょっとしてひょっとするか?

どうなんだ、武蔵。
手ごめにしてでも、ものにするか。

それとも最後まで、小夜子の言う足長おじさんでいるか?”

目を閉じて考え込む武蔵を、小夜子はスプーンを止めて見やった。

“ごめんね、お父さん。お父さんのこと、好きよ。
でもそれは、感謝の意味なの。

でも……。アーシアに会っていなかったら、
お嫁さんになったかも? 
うぅん、だめだめ! やっぱり、正三さん。
正三さんなの。
先にお父さんに会ってたら、また違ってたかもね。”






「なに、考えてるの?」
黙りこくる武蔵に、一抹の不安を覚える小夜子だ。

“あたしを、あげる。
今までのお礼に、あたしの処女をあげる。
いいでしょ? それで。”

喉まで出かかる言葉を、ぐっと甘いアイスクリームと共に飲み込んだ。

「あ? あぁ、すまんすまん。
ちょっと、な。」
と、小夜子を残して席を立った。

「どこ行くの?」
慌てて、小夜子も立ち上がろうとする。

「違う、違う。
小夜子を置いて、どこにもいかんよ。
小夜子、知ってるか? 
アメリカさん、こう言うんだ。」

大きく手を広げて
「Nature call me! ってな。」

「自然が私を呼んでる? なに、それ。」
頭を傾げながら、問い掛ける。

「おっ、訳せるじゃないか。しかし惜しい。
もう一ひねりできれば、完璧なんだがな。」

「一ひねりって?」
「あぁ、いかんいかん。洩れそうだ。」

「洩れそうって、いゃあねえ。
早く行って来て!
えっ? ご不浄に行くってことなの?」


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