昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十八) 今夜も二人の村人が

2013-10-21 18:19:25 | 小説
(四)

そして今夜も、二人の村人が訪ねてきた。

「このご時世では、学のない者はろくな職に就けんし。
やっぱり田舎でくすぶらせてちゃ、なんとも……」

「学校のせんせに、ええ学校に推薦してやると言われとるんじゃが。
なんせ爺と婆を抱えちょっては、その……」

「分かった、分かった。学資たら言うことじゃの? 
そん代わりに、分かっとると思うが、兄の繁蔵を、の」

「もちろんじゃて、当たり前じゃて。
今の村長は、口ばっかりじゃ。

『県の方で按配ようしてくれるから、もう少し待ってくれ。』
の一点張りで。どうにも事が進まん」

「二人、進学の意思あり」

ただこれだけの文面で、手紙を送った。
本家の電話を使えと、大婆さまは言う。

しかし武蔵に媚びへつらうような趣を感じる茂作は、それを頑として拒否した。
茂作が頼み込んでいるわけではない。

取り次いでいるだけなのだが、どうしても卑屈な思いが湧いてしまう。
それを気取られぬようにと、短文での手紙にしていた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿