昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十八) 帰る、じゃと! 遊びに来る、じゃと!

2013-10-20 10:20:23 | 小説
(三)

「やっぱり帰る。また、遊びに来るから」

“帰る、じゃと! 遊びに来る、じゃと! 
小夜子の家は、もうここじゃないのか。
わしがおるこの家は、小夜子の家ではないのか……。

あの、大正生まれのあの男に盗られたのか! 
わしの大事な小夜子を盗られたのか!”

小夜子が居なくなってからの茂作、己でも予期せぬ日々を送った。
寂しさに耐え切れぬだろうと考えていたが、あにはからんや嬉々として村中を飛び回っている。

繁蔵の村長出馬を受けて、繁蔵本人は勿論のこと大婆さままでもが、茂作に頭を下げたのだ。
嘗ては土間に座らせての対応をしていた茂作に、だ。

今では座敷に上げて歓待する。
然も、三日と空けずに夕食だなんだと歓待する。

そして村長選に向けての作戦を、茂作と共に図っている。
作戦と言っても、陳情に訪れた村人宅に出向き、村長選のことを匂わすのだ。

「兄の繁蔵が役場におれば、わしも色々とやり易くなる。
婿への連絡も、役場の電話を使えることになろうし」

しかし実のところ、茂作の心内は穏やかではない。

“あんな大正男の金に目がくらみよって。
本家と言っても、こんなものか。

フン。今までびくついてきたわしも、大ばか者よ。”
と、苦々しい思いにかられている。


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