昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十六)の八

2011-09-27 20:41:15 | 小説
予期していたこととはいえ、ホールから観客が溢れていた。
扉を開け放ち、黒い幕を張り巡らせている程だった。
「やっぱりね、すごい人気だわ。」
「まいったな、これは。どうします?
一旦、出ますか。半券に印を入れてもらって、出直した方が・・」
「ここで待ちましょ。
あと、二十分もすれば終わるんだから。
そうだわ、軽く食べましょう。
そこの売店に、アンパンが売ってるわ。」
正三の買い求めたパンとラムネで、時間を潰すことにした。

正三としては、映画を見終わった後で洋食屋での食事を考えていたのだが、
小夜子の意向に逆らう訳にはいかない。
機嫌を損ねては、この後の腹積もりが狂ってしまう。
“夕食を奮発してやれよ、正三。
カツレツ辺りを、ご馳走してやりな。
とに角、陽が落ちるまでは、時間を何としても潰すんだ。”
“その後は、公園でひと休みするんだよ。
なぁに、アベックだらけに決まってる。
黙ってても、良い雰囲気になるってもんだぜ。”
“ヘヘ・・、羨ましいぜ。何てたって、あの小夜子だもんな。”
“そ、そんなこと・・。”
“おいおい、正三。お前もそろそろ、男になれよ。”


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