昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十六)の九

2011-09-30 22:20:58 | 小説
「ねえ、聞いてるの!」
「えっ、勿論、聞いてます。」
生返事を繰り返していた正三は、慌ててかぶりを振った。
「私も、何としても東京に行くわ。正三さんは、いつなの?」
「今月末の予定です。来月に、入省させて貰えるから。」
「いいわね、正三さんは。」
「ありがたいと、思ってます。だけれど、責任も重いです。
伯父さんの顔を潰すようなことは、できないから。
重圧感で、いっぱいです。」
「あっ!終わったみたい。急がなきゃ!」
ぞろぞろと、黒い幕の間から、観客が出てきた。
皆一様に、難しい顔をしている。
「この映画って、芥川龍之介の『藪の中』をメインにしてるんでしょ、確か。」
「はい。『羅生門』という作品と、くっつけてる筈です。
短編ですからね、芥川の作品は。」
「正三さん。わたしのこと、好き?」
小夜子の突然の言葉に、正三は言葉が出なかった。
愛くるしい瞳で見つめられて、正三の胸の高鳴りが、一気に爆発した。
「も、勿論です!」
思わず、叫んでしまった。
「そんな大きな声で言わなくてもいいのに。変な正三さん。」


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