昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

「祭りの夜(改)」 八

2013-06-19 21:31:54 | 小説
(八)

その口上如何によって客足が違うらしいが、その折の呼び声の主は相当に年季が入っていた。
もう五十を超えた、少し頭の禿げ上がりかけている赤ら顔の男だった。

その口から発せられるつぶれたしゃがれ声が、どことなく怠惰的な雰囲気を醸し出す。
今にも倒れそうなござで囲われた小屋に妙に合っていた。

時として男の口上が聞き取れなくなるのだが、
その一座のスターの生い立ちを語るのに、聞き取れないことが好都合なのかもしれない。


二人の中学時代の記念にと、お祭りにやってきた折のことだっだ。

見世物小屋の『へびを喰らう女』の哀しい宿命に、その友人は大いに同情した。
他愛もない子供騙しの興行だったのだが、当時の二人には衝撃的なことだった。

インドのニューデリー駅で発見されたという狼少年の話を、
授業の中で聞かされたばかりの折だったことで、多いに興味をかきたてられた。

そして友人が、とんでもない事を思いついたのだ。
多感な少年たちの妄想とでも言うべきか? 

しかし当時の二人にとっては、英雄的行為に思えた。


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