昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十四)の五と六

2011-11-26 14:27:29 | 小説


「恥ずかしいですわ、私・・」
三保子は、俯きかげんで呟いた。
「いやいや、お似合いです。
見違えました、実際。
さすがに、加藤の見立てだけのことはある。
うん、うん、・・。
ちょっと、回ってみなさい。」
言われたとおりに、三保子はクルリと一回りした。
パーと裾が広がり、膝の裏が悩ましく武蔵の目に映った。
凝視する武蔵に対し、三保子は
「そんなに見ないでください。
恥ずかしいですわ、社長さん。」と、甘えるような声を出した。
「さっ、行きましょう。」
支払いを済ませた五平が、二人に声をかけた。
「三保子さん、恩に着る必要はありませんから。
詳しい話を聞いて、それで決断してください。
納得した上で、ということにしましょう。」
そう言いつつも、半ば強要していた。
‘恩に着る’という言葉が、三保子にズシリと伸し掛かった。



事前に連絡を入れていたのか、梅子がしきりに三保子をけしかけた。
「おやんなさい、三保ちゃん。
楽なものよ、そんなの。
それに、短い期間だし。
後々のことも、面倒見てくれるしさ。
ひと財産できるわよ。
アメさん相手だと言っても、同じ人間だしさ。
それに、レディファーストとか言って、すごく大事にしてくれるわよ。」
「はい・・」
逡巡する素振りを見せつつも、三保子の気持ちは既に固まりつつあった。
田舎の両親に対して、今以上の仕送りが出来そうだ、と考えていた。
三保子の実家は、九州は佐賀県の片田舎だった。
少しばかりの田畑を耕して、小学五年生を筆頭に三人の弟、妹が居た。
他に兄と弟の二人が居たのだが、どちらも戦死していた。
必然、三保子からの仕送りを頼りにせざるを得ない状況にあった。

東京で働いているとはいえ、小さな会社の事務員では、月給もたかがしれている。
毎月のように“カネオクレ”の電報が届くのだが、どんなに食費を切り詰めても実家が満足のいく額にはほど遠かった。
“夜のバイトを探さなくちゃ・・”
そんな思いに駆られていた折の、五平からの誘いの言葉だった。
胡散臭さを感じる三保子だったが、紳士然とした武蔵に安心感を覚える三保子だった。
その意味では、武蔵を引っ張り出した五平の思惑が当たった。
五平の言を信じれば、今の月給の三倍近い収入になる。
然も、食住の費用は一切かからない。
衣類にしても、プレゼントされることもあると言う。
唯一不安と言えば言葉なのだが、おいおい覚えれば良いと告げられた。
周りには先達の女性が居るから、彼女達に教えて貰えるとも。


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