昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十四)の七と八

2011-11-27 11:59:58 | 小説


最後に、五平が念を押した。
「永山さん。」
親しげに三保子さんと呼んでいた五平が、改まった口調で告げた。
「念を押しますが、夜の生活を拒否することはできません。
心配は要りません。
彼らは、非常に紳士的です。決して、無理強いはしません。
体調が優れない時や、気分が乗らない時には、寛容な態度で接してくれます。
しかし度重なるようですと、解雇せざるを得ません。」
不安げな表情を見せる三保子に対し、五平はにこやかに付け加えた。
「なぁに、案ずるより有無が易し、ですよ。
何も心配することはありません。
少しの間、社長とお付き合いしてください。
色々と、教授します。
せいぜい美味しい物を、ご馳走してもらいなさい。
洋食に慣れる必要もありますからね。」
突然の五平の言葉だったが、武蔵は
「任せなさい、私に。」と、軽く三保子の肩を叩いた。
「わかりました、お世話になります。」
意を決したように、三保子は深々と頭を下げた。



ひと月の間に、武蔵は三保子との逢瀬を幾度となく重ねた。
“出来るだけ、贅沢の味を覚えさせてください。”
五平の進言もあり、武蔵は一介の女子事務員では味わえない世界を教え込んだ。
嬌声を上げる三保子を見る度、武蔵は満足感に浸った。
一流ホテルでの食事やら、ナイトクラブでのダンスやら、三保子にとっては別世界のことだった。
二度目の逢瀬の折に体を許した三保子は、次第に武蔵の愛人になりたいと思い始めた。

月が変わって、いよいよオンリーとしての生活が始まる。
三保子の表情に翳りが出始めたことに気付いた武蔵は、五平にその旨を告げた。
「五平ょ、困ったぞ。どうも、勘違いをしたらしい。
いや、勘違いというより、誤算と言うべきかな?
俺の愛人になりたい、と言うんだ。
どうしたものかな、これは。」
「そうですか・・。
少し、遊ばせすぎましたかな。
分かりました。後は、私が受け持ちます。
なーに、大丈夫です。
今更、戻れませんから。
うまく引導を渡します。」


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