昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

「祭りの夜(改)」 (四)

2013-06-15 13:45:28 | 小説

(四)

私にとっての祭りの一番は、何と言っても見世物小屋だ。
全国の祭りを求めて渡り歩いているそれが、私にはとても懐かしいものになっている。

しかし最近では、よほどのことがなければ見かけることがない。
もう過去の遺物となってしまったのだろうか。
と、私の耳に突然、あの懐かしい呼び声が聞こえてきた。

「さあさあ、お代は見てのお帰りで結構だよ~。
さあ、急いだ急いだ~。

心臓の悪い方は止めとくれよ~。

化けて出られちゃあ、あたし、嫌だからねえ~。
でもねえ、きれいなお姉さんの幽霊ならぁ、大歓迎だよ~。」

 慌てて辺りを見回してみるが、それらしい小屋はない。

「なあ、妙子。
今、呼び込みの声が聞こえなかったか? 
今さ、聞こえてきたんだよ。」

しかし彼女は首を振り、怪訝そうな表情を私に向けている。
と、お目当てのりんご飴を売る夜店を見つけて、脱兎の如くに駆け出した。


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