昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (十四)

2024-12-21 08:00:51 | 物語り

「ほかにも、架空請求というものがあります。
覚えのないことでの請求には、けっして応じないように。
まず警察に相談してください」
“そうだ、そうだった。相手の言うなりになっちゃだめなんだ”
冷静さをとりもどしたわたしは、意をけっして
「警察に連絡します。そちらさんの会社名を教えてください」
と、ふるえぎみの声ながらもきっぱりと言い切った。

受話器をもつ手が、激しくふるえた。
心臓の鼓動も、これ以上ないというほどの早鐘状態になった。
“しっかりしろ! ここが正念場だぞ”。
ともすれば弱気になりがちなこころを叱咤し鼓舞して、ふるえる手をもういっぽうの手でおさえつけた。

「なんだと、こら! ふざけたこと言うと、いわすぞ、こら! どこの警察だよ。
新宿か、渋谷か。そこらの警察には話が行ってるんだよ、こら! 
相手になんかされねえよ。聞いてんのかよ、こら!」
 なんども「こら!」と脅しにかかってきた。
そのたびに体がビクリと震えはしたが、警察ということばを口にしたとたん、慌てふためく男のようすが手に取るように分かった。
恐怖感がとれたわけではないが、いくぶん冷静になれた。

「とにかく、これから警察に行きますから」
 わめき散らす相手の声をさえぎり、叫ぶように大声でつげて、受話器をおいた。
いや、置こうとした。しかし、手が、指が、はりついたように固まっている。
1本ずつ指をはずして、ようやく置けた。
手にはじっとりと汗をかいている。
口中もひからびて、のどがひりつく感じだった。

“待てよ。警察と言ったら、新宿とか渋谷とか言ってたな。
東京じゃないか。なんだ、こっちの住所は分かっていないじゃないか。
なにが人を向かわせてるだ…”
 安堵感がいっきに広まった。そしてあの会場でのことが思いだされた。



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