昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十六)の五

2011-09-23 17:01:42 | 小説
「大丈夫です、お母さん。
僕たちは、清らかな交際ですから。
彼女の東京行きは、僕とは関係ありませんから。
心配性だなぁ、相変わらず。」
正三は、笑いながら答えた。
その実、心の奥底を見透かされたのではないか、という不安も過ぎった。

先日の逢瀬の折には、隣町の映画館に出かけた。
ベニス国際映画祭でグランプリを獲得した、
黒澤明監督作の〔羅生門〕が上映されていると聞き込んだ小夜子の、たっての希望だった。
正三にしても興味のある映画であったが、
二人を知る人間の居ないという隣町であることが、嬉しかった。
更に又、映画館という隠微な響きが、正三の心を捉えた。
「そりゃあ何と言っても、映画さ。
ぐっと近づくものだぜ。何せ暗闇だからな。
それに、立ち見が一番だ。
ぎゅうぎゅう詰めの中だろ?
ククク・・、わかるだろうが、なぁ!」
「そう、そう!多少の接触には、目をつぶってくれるさ。」
「それより何より、待ってるんじゃないのか?
昼日中から、挑発的な態度を取る位なんだから。
ひと押ししてみなよ、正三。」
友人たちの言葉が、正三の耳に響く。


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