長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第二部～（七十九） かつがれたのよ、あんた

(十二)

「バカね。そんなこと、間に受けちゃって。
冗談に決まってるでしょうに。
こんな痩せっぽちのガリガリ女を、好きになるわけないでしょ！　
かつがれたのよ、あんた。バカね、ほんとに」

頬を赤らめながら、何度も否定する勝子だ。
しかしそれでも竹田は、口を尖らせている。

「病気が治ったら、元に戻るって。
栄養のあるものをたくさん食べれば、きっと元のふくよかな姉さんに戻るって。
もっとも、太った姉さんを見たら、二人とも後ずさりしちゃうかもね」

「何てこと言うのよ、勝利は。
お母さん。笑ってないで、何とか言ってよ。
小夜子さん、あなたもよ」

「さあさ、もうその辺にしなさい。勝子、支度なさい。
ちょっと失礼して、体を拭いていきなさい。
銭湯にはまだ入れないからね」

台所から、勝子の嬌声が洩れてくる。
顔を真っ赤にして、俯く竹田。
小夜子には、それが羨ましく感じられる。