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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~(二) 淫靡な世界に入り込んだ気が

2014-09-24 08:41:25 | 小説
店内には、十人足らずのお客が居た。
カウンターに陣取りバーテンダーと話しに興ずる者、何やらボソボソと話す三人連れ、ボックスでホステスの嬌声に戯れる四人連れ、様々だった。

井上と彼は、奥まったボックスに案内された。
淡いピンク系の照明が、壁際に掛けてあるボックスだった。
メインの照明の灯りは、このボックスまでは届かず、やや薄暗く感じた。
それだけで、彼には淫靡な世界に入り込んだ気がしていた。

「お久しぶり。どこで浮気してらしたの? 
珍しくお客様の入りの良いときに来ていただいても、ちっとも嬉しくないわ。
閑古鳥の鳴いている時に来てくださらなくちゃ」
とおしぼりを手渡しながら、ママが井上に科を作った。

「おいおい。たまに来てその言葉かい? そりゃないよ。
係長如きに無理を言っても始まらんでしょうが」
差し出されたおしぼりに甘い香水の香を嗅ぎながら、彼は二人の会話に聞き入っていた。

「こちら、初めてね? あなたの子分かしら。いよいよ地盤固めってところね」
「子分ってわけじゃないがね、期待はしてる。
是非にも、うちのデパートに入って欲しいもんだ。
実はね、彼のことでね、苦情の電話が入ったんだ。いやぁね、初めてじゃないかな、あぁいった苦情は。
うん、初めてだな」

「えっ!? ど、どんな苦情ですか? 気を付けてるつもりなんですけど。
お客様に対して、決して不快感を与えないように、って」
頭を掻きながら照れ笑いをしていた彼だったが、苦情という言葉が発せられた瞬間サッと顔色を変えた。

「どうだい、この真面目さ。仕事に対して、真剣なんだナ。
といって、ガチガチの頭でっかち人間ではないんだ。
臨機応変の柔軟さも持ち合わせているいるんだナ。
でなければ、あの気難しいお嬢さんに褒められるわけがない。
さっきの苦情というのはね、、、」
と、身振り手振りでの説明を始めた。


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