二月も終わる或る日、井上係長の声掛かりでクラブに、お供することになった。
麗子との突然の別れから、なかなか立ち直れずにいた彼だった。
いつもの覇気がない彼だった。
井上としても、今までの彼の精勤ぶりからは想像の出来ない状態に、苦言を呈してはみた。
しかし
「すみません。ちょっと疲れが…」と言葉を濁す。
「失恋でもしたか?」と、冗談交じりの声にも、
「はい? ええ。あ、いえそんなことは」
と、力ない声が返ってくるだけだった。
井上としても、戦力として期待している彼のそんな仕事ぶりは、他のバイト学生にも悪影響を与えると考え、彼を誘ったのだ。
「クラブ・蝶」と書かれたドアを開けるや否や、ママらしき女性が妖艶な笑みを浮かべて近付いてきた。
初めての経験である彼には、その言いしれぬ異妖なムードに戸惑った。
映画で見るそれーさわやかなエロティシズムの溢れる楽園のように思えていたーとは違い、嬌声の渦巻く店内であった。
その退廃的なムードに、彼は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
「ケンちゃん、いらっしゃい」
「よ、ママぁ。逢いたかった、寂しかったよ」
「おぉ、よしよし。また叱られたの? 慰めてあげるからね」
和服姿ではあったが、その豊満な胸は隠しようもない女性であった。
と言うよりは、小太りと表現すべきだろうか。
その胸に係長の顔をうずめさせて、頭を撫でる仕草をしている。
初めて見る井上の嬌態であった。
麗子との突然の別れから、なかなか立ち直れずにいた彼だった。
いつもの覇気がない彼だった。
井上としても、今までの彼の精勤ぶりからは想像の出来ない状態に、苦言を呈してはみた。
しかし
「すみません。ちょっと疲れが…」と言葉を濁す。
「失恋でもしたか?」と、冗談交じりの声にも、
「はい? ええ。あ、いえそんなことは」
と、力ない声が返ってくるだけだった。
井上としても、戦力として期待している彼のそんな仕事ぶりは、他のバイト学生にも悪影響を与えると考え、彼を誘ったのだ。
「クラブ・蝶」と書かれたドアを開けるや否や、ママらしき女性が妖艶な笑みを浮かべて近付いてきた。
初めての経験である彼には、その言いしれぬ異妖なムードに戸惑った。
映画で見るそれーさわやかなエロティシズムの溢れる楽園のように思えていたーとは違い、嬌声の渦巻く店内であった。
その退廃的なムードに、彼は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
「ケンちゃん、いらっしゃい」
「よ、ママぁ。逢いたかった、寂しかったよ」
「おぉ、よしよし。また叱られたの? 慰めてあげるからね」
和服姿ではあったが、その豊満な胸は隠しようもない女性であった。
と言うよりは、小太りと表現すべきだろうか。
その胸に係長の顔をうずめさせて、頭を撫でる仕草をしている。
初めて見る井上の嬌態であった。
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