昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~大晦日のことだ~(二十七)

2016-02-23 09:06:49 | 小説
 主任介護士がため息を吐きながらも、しかし目は笑っていた。

「にあんちゃんにも困ったものね。でも良い子なのよねえ」
「すみません。にあんちゃん、なにかミスをしましたか。あたしから注意しておきます」

「ぞんざいな口の利き方がね、少し気になるんだけど。
でもね、そこがにあんちゃんの長所でもあることだし。
分かるかしら、ほのかさん」

 自分だけが使うはずのにあんちゃんという呼称を、今では誰もが使っている。
次男に対する警戒心がとれたことは、ほのかにも嬉しいことではあった。
しかしほのかだけの兄である次男が、施設での人気者になっていくことに嫉妬心がないとはいえなかった。

「ほのかさん。あなたには、ちょっときつい言い方になるかもしれないけど」
 と前置きをして、かしこまっているほのかを椅子に座らせた。
 
「あなたの場合は熱心すぎるの。あなたの介護はね、一生懸命すぎるの。
良いことなのよ、それは。でもね、力が入りすぎているの。
皆さんの要望に応えようと頑張りすぎているの」

 主任の言葉が理解できなかった。
首をかしげるほのかに対し
「にあんちゃんに聞いたわ。おばあさんがお亡くなりになったときのことを。
まだ小学生のあなたには、さぞショックだたことでしょう。
初めてなんでしょ、ご臨終に立ち会ったのは」

 優しく語りかけながらほのかの手をとり、柔らかく撫でた。


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