昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(二十二)

2024-04-14 08:00:07 | 物語り

 一応「オーバーしてましたか?」と確認してみるが、警察官の事務的なことばが冷たく耳にはいる。
「73キロだよ、ここは50キロだからね」
「けど……100キロから落としている最中だったから、もうすこし待ってもらえれば、キチンと法定速度……」
「おいおい。料金所を過ぎたら、ゼロからスタートだろ? それは通らないよ」
 彼から見るとお爺ちゃんに見える警察官があきれ顔を見せながらたしなめた。
そうなのだ、一旦は停止しているのだ。
料金を払うために停止しているのだ。
言い訳になっていないな、と彼も思った。
思ったが、それでも「車のメーターがおかしいのかなあ」と呟いてみた。

「23キロオーバーだから。はい、ここに署名をして」
 彼のことばに耳を貸す風も見せずに、切符を差し出してきた。
グズグズと署名をためらう彼に対して「後がつかえているんだ、早くして」と、若い警察官の荒い声が飛んだ。
渋々の彼に対して
「運が悪かったなんて思わないように。事故らずにすんだと思わなきゃね」
 と、老警察官の柔らかい声で観念させられた。

 (きょうは堤防を行けばよかった)と後悔しつつ、長良橋通りに入りドライブウェイ入り口のふもとにたどり着いた。
ふたりのいぶかる視線を背にしながら彼は車を降りた。
念のために冷却水の確認をしたかったのだ。
今朝確認をしているので心配はないのだが、クネクネとした山道を登るのだ、しかも三人乗車の状態で。
馬力の小さい軽自動車なのだ、万が一にもエンジントラブルに見舞われてはならない。
特に真理子の前で恥をかくわけにはいかない。

 彼には冷却水の確認でにがい経験がある。
免許をとって間もない頃だったが、水温が異常に上がりオーバーヒート寸前になった。
あわててラジエターのふたを開けたとき、熱湯というよりも火に近いものが彼の顔面をおそってきた。
そのときもし、サングラスをしていなかったら……背筋が寒くなる思いをした。
鼻尖とそして上下の唇とに火傷をした。
もちろん、お気に入りのティアドロップ型サングラスは使い物にならなくなった。

 トラブルの原因は半分切れかけ状態のファンベルトだった。
たるみができてしまい、うまく回っていなかった。
そのためにラジエター内の冷却水がうまく循環せずに、水温が異常に上がってしまった。
で今回は少し時間をおいてから、ファンベルトのたるみの確認と冷却水の量の確認をした。
(よし、OK)と声に出しながらボンネットを閉めた。



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