昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十二) 小夜子奥さまー!

2013-11-27 21:25:29 | 小説
(四)

「奥さまー! 小夜子奥さまー!」

張りのある声が構内に響いた。夢想中の小夜子を、現実に呼び戻した。

「お待たせして申し訳ありません。あちらの駅から連絡頂ければ、お待たせすることもなかっのですが。
大丈夫ですか、お疲れではありませんか? お荷物、これですね。
はい、社長に言い付かっております。お戻りになるまで、ぼくをお使いください」

嬉しそうに話す竹田に、初めて会った折の暗く打ちひしがれた竹田とは別人に思える小夜子だ。

「こりゃ重いや。小夜子奥さま、どうやって運んで来られ…。
そうか、どなたかが運んでくださったのですね。

小夜子奥さまに頼まれれば、誰だって喜んでお手伝いする筈です。
いや、お頼まれになる前に、申し出るでしょう」

キビキビとした動きで、足元に置かれている荷物を持ち上げる竹田。
肩に担いでさっさと歩いていく。

「ええ。車掌さんがね、運んでくださったの。
他にもお声を掛けてくださったんだけど、車掌さんがね来てくださったの」

「あぁ、そうですか。気にしてくれてたんですね、車掌が」
「えぇ、まあ。そうみたい…」

嘘を吐いてしまった。そうでなければならない、小夜子の思い浮かぶ様を口にした。

「その節は、ありがとうございました。
お陰さまで姉の体調も良く、週末には自宅へ帰ることが出来るようになりました。

小夜子奥さまのお陰と、皆感謝しています。
母なんか、手を合わせるんです。で、ぼくらにもそうしろって。

菩薩様のようなお方だから、一生感謝の念を忘れるなと。
お題目のように、毎晩聞かされてます。それてですね、小夜子奥さま。

汚いところですが、一度姉が帰宅した折にでもお立ち寄りくださいませんか。
大したおもてなしもできませんが、是非お食事を差し上げたいと申しております」


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