長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第一部～ （二） そんな自分に腹が立ってきた

「でも、ぼくなんかじゃ。ぼくなんかじゃ、、」
激しく泣きじゃくりながら、母の胸に抱かれている錯覚に陥った。
ユミは彼の髪に優しく唇を当てながら、
「タケシは素敵な青年よ。その麗子さんとは縁がなくても、きっと素敵な女性が見つかるわよ。
でもね、ひょっとして麗子さん、タケシが好きだったのかも？　よ」
と、囁いた。
「えっ？！」
ユミの胸の中から顔を上げると、彼はユミを直視した。
寮母も同じことを言ってくれた。

“こんな僕が、ほんとに…本当に、麗子さんに好かれていた？…”
と、やはり半信半疑の思いが消えなかった。
自分の通う大学よりも、はるかにランクの高い大学であること。
父親がエリート官僚であること。
そして皆が振り向く程の美人であること。
それらが彼をして、壁を作らせていた。

バイト先の女子社員には、気後れすることなく話ができるのに、どうしても麗子の前では萎縮してしまう。
考えてみれば、ユミはホステスである。
彼の心の中に蔑みとまでは言わなくとも、ユミに対する驕りの気持ちがないとは言えない。
女子社員にしても、高卒じゃないかという驕りはあったろう。
彼はそんな自分に腹が立ってきた。