長編恋愛小説 ～ふたまわり・第一部～（八）の四

「お大尽な暮らしを望んだわけじゃないわ。
体を動かすことは好きだし、
みんなのお役にも立ちたかったし。
でね、
おさんどんやらお洗濯やらを手伝ったの。
お洗濯はね、
すっごく難しいの。
お芝居で着る着物でしょ？
優しく洗ってあげなくちゃいけないの。
中には洗っちゃいけないものもあったりしてね。
濡れ手ぬぐいを固く絞って、
それで汚れている部分をね、叩くの。
おしょう油なんかこぼした時みたいにね。
初めは分かんない事だらけで、
叱られてばっかり。
でも、
すぐに覚えたから、
座長さんに褒められたりもしたのよ。」

「うんうん、
そうかそうか。」
目を輝かせて話す澄江に、
茂作は目を細めて頷いた。
「でもね、
でもね、・・・」
「うん、どうした？
なにがあった？」
「ヒマを出されたの、
家に帰れ！って。」
「そりゃ、
どういうことだ？
まさか太ったから、
なんて、のう。
冗談じゃから・・」