長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第一部～ （六） 失禁が激しいらしいんだ

「おい田口、飲み過ぎだぞ！」
慌てて高木が、田口を制した。気まずい空気の中、皆押し黙っていた。

「飲み過ぎらぁ？　はたり前だ、飲まずにひられるかは。
何ら、なんら。何は悪いことを言っらはあ、ほれえ。
ほんろのほとをひって何が悪いんらあ！」

高木の手を振りほどくと、手酌でビールをコップに注いだ━注ごうとした。
が、手の震えからコップの中にビールが収まらない状態だった。

「なんら？　ホップが動いてるぞ。じっろひてろ、ホップ。
ま、ひひや。おい、ミハライ。茂作さんよ、大変なのは」
「もういい、田口。俺が話す。このままじゃ、ミタライ君も気になって仕方がないだろう」
高木が意を決したように、皆をグルリと見渡しながら頷いた。

彼は事の重大さに、回っていた酔いも醒めた。
居住まいを正しながら、背筋を伸ばして聞くことにした。

「実はね。詳しい事情はしらないが、茂作さんの失禁が激しいらしいんだ。
寝込みがちなことも手伝って、間に合わないらしいんだ。
まあ、年寄りを抱えている家庭では、大なり小なり同じ問題を抱えているらしいんだが」

信じられない言葉だった。言葉が出なかった。小夜子からは、一言も聞かされていない事だった。
「まさか…」と、高木の目を見ながら絶句した。
「いや、信じられないのも無理はない。だけど、佐知子のお婆さんも時々あるらしいんだ。なあ、佐知子」
「そうなの」
小さく頷く佐知子だった。