昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (六) 俺は嫁さんが欲しい。

2014-11-24 08:55:09 | 小説
「確かに、田口の言うとおりだ。年中無休だ。
そりゃ、手を抜くことは簡単さ。だけど、何ヶ月か先にしっぺ返しが必ず来る。
今のやり方じゃ、お先真っ暗だ。
親父達は、”仕方が無い。国の政策の誤りだ”なんて逃げてるばかりだ。
そうじゃないんだ」

間を置くようにビールを飲み干すと、一気にまくしたてた。
「新潟の方で、株式会社方式の農業を始めたという話だ。
俺も考えていたことなんだが、先を越された。
農家だって、サラリーマンになって悪いことはないはずだ。
耕作面積を大きくして、もっと効率的に機械を使うべきなんだ。
一軒毎に機械を持つなんて、非効率すぎる。
確かに、田植えにしろ刈り入れにしろ時期があることは事実だ。
だからこそ、耕作面積を大きくすべきなんだ。
本来なら、農協が音頭をとるべきなんだがな。広尾、お前の仕事だぞ、これは」

「そうは言ってもな。俺みたいな若僧の提案なんか、歯牙にもかけてくんない」
背を丸めたまま、広尾は口を尖らせた。
「いいさ。あと十年、いや五年か、その頃には大事になるぞ。
その時にこそ、俺達の提案が日の目を見ることになるさ。
それまでは勉強だ、なあ田口」

高木のそんな言葉にも、田口は耳を貸さなかった。
「俺は嫁さんが欲しい。サラリーマンになりたい。
小綺麗な団地に住みたい。真理子、嫁さんになってくれよ」
日本酒を飲み続けていた田口は、殆ど泥酔状態になっていた。
畳に頭をすりつけて、本気とも冗談とも付かぬ体でいた。

「そうかあ、そんなに深刻なんだ。知らなかったよ」
のんびりとした時間の中での生活を思い浮かべていた彼には、ショックな彼らの言葉だった。
「深刻らと? バハヤホー! ミハライ、おまへらってそうなんらよ。
ひらないのか、おまへのらい好きなおははあんの苦労を?」
呂律の回らなくなった田口の言葉だったが、一瞬場にいる皆の顔色が変わったことから何やらとんでもない問題が起きていることを感じた。


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