(七)
全てが令嬢のペースであり、彼は唯々付き従うだけであった。
気まぐれに行動する令嬢に振り回されながら、時として反発心を感じる彼ではあったが、すぐにも萎えてしまう。
茂作の束縛から逃れようとした彼が、今又令嬢の意志に従うことは、或意味で滑稽ではあった。
しかし彼は、満足だった。女王然とする彼女に従うことに、悦びさえ感じた。
底冷えのする朝ではあったが、彼の身体は火照っていた。
参道ですれ違う人々全てが、二人に視線を向けた。彼の思いは得意絶頂であった。
“どうだい! みんな、羨ましいだろう!”
そんな思いが、身体中を駆けめぐっていた。
露店が立ち並ぶ参道に入ると、人混みでごった返し始めた。
必然的に、令嬢は彼に寄り添ってくる。
彼の鼓動は波打ち、頭の中で早鐘のように大きく響いた。
「すごい人ごみね。武士さん、私を守ってくださいね」
「は、はいっ。もちろん、です!」
首に巻かれている毛皮のショールが、人混みの中で外れかけた。
慌てて彼は令嬢の肩に手を回し、ショールを押さえた。
令嬢の体温が、彼に伝わってくる。そして、ほのかに漂ってくる香水の香に、彼は酔いしれた。
「メルシー」
そんな令嬢の言葉も、彼の耳には届かなかった。
人混みに押されて令嬢の身体が彼にもたれてくると、
その女性特有の柔らかな弾力が、彼の鼓動を更に波打たせた。
彼の手に、更に令嬢を引き寄せるべく力が入る。
そしてもう片方の手を前方に回し、抱え込むようにした。
そうしなければならない程、込み合ってきたのだ。頭が、
“ガン、ガン、ガン”と、金槌で叩かれているようになっていた。
彼はもう、お詣りという状態ではない。感極まった状態に陥っていた。
全てが令嬢のペースであり、彼は唯々付き従うだけであった。
気まぐれに行動する令嬢に振り回されながら、時として反発心を感じる彼ではあったが、すぐにも萎えてしまう。
茂作の束縛から逃れようとした彼が、今又令嬢の意志に従うことは、或意味で滑稽ではあった。
しかし彼は、満足だった。女王然とする彼女に従うことに、悦びさえ感じた。
底冷えのする朝ではあったが、彼の身体は火照っていた。
参道ですれ違う人々全てが、二人に視線を向けた。彼の思いは得意絶頂であった。
“どうだい! みんな、羨ましいだろう!”
そんな思いが、身体中を駆けめぐっていた。
露店が立ち並ぶ参道に入ると、人混みでごった返し始めた。
必然的に、令嬢は彼に寄り添ってくる。
彼の鼓動は波打ち、頭の中で早鐘のように大きく響いた。
「すごい人ごみね。武士さん、私を守ってくださいね」
「は、はいっ。もちろん、です!」
首に巻かれている毛皮のショールが、人混みの中で外れかけた。
慌てて彼は令嬢の肩に手を回し、ショールを押さえた。
令嬢の体温が、彼に伝わってくる。そして、ほのかに漂ってくる香水の香に、彼は酔いしれた。
「メルシー」
そんな令嬢の言葉も、彼の耳には届かなかった。
人混みに押されて令嬢の身体が彼にもたれてくると、
その女性特有の柔らかな弾力が、彼の鼓動を更に波打たせた。
彼の手に、更に令嬢を引き寄せるべく力が入る。
そしてもう片方の手を前方に回し、抱え込むようにした。
そうしなければならない程、込み合ってきたのだ。頭が、
“ガン、ガン、ガン”と、金槌で叩かれているようになっていた。
彼はもう、お詣りという状態ではない。感極まった状態に陥っていた。
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