(六)
かなりの距離があり、小夜子も目を細めてみるのだが、中々に娘の言う尻尾を振る何かは、見ることができなかった。
「武蔵、武蔵。あそこの木の陰に、何か居るのが見える?」
娘の父親に聞こえぬようにと、耳打ちをする。
「どれどれ。あぁ、あの木か? うーん、遠くて分からんなあ。何か居るのか?」
「降参だわ、れいちゃん。尻尾を振るってことは、犬かな?」
「正解! 大っきな、柴犬です。でも、野良犬なの。
あたしは飼いたいんだけど、お父さんがだめだって。
どうして? って聞いたら、弟が怖がるからだって。
弟がいけないのよ。石なんか投げるもんだから、犬が吠えたの。
体が大きいでしょ? 声もね、大きいの。
それで、弟の奴、泣き出しちゃって。
情けないったらありゃしない。もう九歳なんです。
十一月には、十歳になるのに」
かなりの距離があり、小夜子も目を細めてみるのだが、中々に娘の言う尻尾を振る何かは、見ることができなかった。
「武蔵、武蔵。あそこの木の陰に、何か居るのが見える?」
娘の父親に聞こえぬようにと、耳打ちをする。
「どれどれ。あぁ、あの木か? うーん、遠くて分からんなあ。何か居るのか?」
「降参だわ、れいちゃん。尻尾を振るってことは、犬かな?」
「正解! 大っきな、柴犬です。でも、野良犬なの。
あたしは飼いたいんだけど、お父さんがだめだって。
どうして? って聞いたら、弟が怖がるからだって。
弟がいけないのよ。石なんか投げるもんだから、犬が吠えたの。
体が大きいでしょ? 声もね、大きいの。
それで、弟の奴、泣き出しちゃって。
情けないったらありゃしない。もう九歳なんです。
十一月には、十歳になるのに」
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