昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十三) 降参だわ、れいちゃん

2014-04-01 21:43:05 | 小説
(六)

かなりの距離があり、小夜子も目を細めてみるのだが、中々に娘の言う尻尾を振る何かは、見ることができなかった。

「武蔵、武蔵。あそこの木の陰に、何か居るのが見える?」
娘の父親に聞こえぬようにと、耳打ちをする。

「どれどれ。あぁ、あの木か? うーん、遠くて分からんなあ。何か居るのか?」

「降参だわ、れいちゃん。尻尾を振るってことは、犬かな?」

「正解! 大っきな、柴犬です。でも、野良犬なの。
あたしは飼いたいんだけど、お父さんがだめだって。

どうして? って聞いたら、弟が怖がるからだって。
弟がいけないのよ。石なんか投げるもんだから、犬が吠えたの。

体が大きいでしょ? 声もね、大きいの。
それで、弟の奴、泣き出しちゃって。

情けないったらありゃしない。もう九歳なんです。
十一月には、十歳になるのに」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿