昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~(十四) 私を通して

2015-07-06 08:42:31 | 小説
武士さん。
貴方はね、私を通してご自分を探してらっしゃったの。
もしもあの噂が本当だとしたら、その方の中に、ご自分を見つけようとなさっているのよ。
ご自分を押し殺し、お相手の反応を見ていらっしゃるの。
そしてね、ああ、自分はこんな人間なのだと、推し量っているのです。

武士さん。
貴方は、すごく気が小さい人なの。
私とのことから、自暴自棄からのことと思います。
どうぞ、早く気が付いてください。
貴方にとって、ご損ですわ。

私は、学生。そして貴方も学生。
麗子の通う大学が、貴方にとって負担になっていることは知っていました。
頭脳明晰な貴方です。
それこそ、東京大学の法学部ですら合格なさったでしょうに。

いつか、仰有いましたね。
京都大学に入りたかった、と。
でも、それを拒否された。
ご自分を虐めるため? それとも、お爺様に対する反発?

麗子は、生まれて初めてアルバイトを致しましたの。
貴方と出会うきっかけになりました、あのデパートで。
三ヶ月程でしたが、父に無理をお願いしました。
何故か、おわかりになる? 
うふふ…
社会勉強、ということにしておきましょうね。

丁度、配送業務に欠員が出たということで、事務をやらせて頂きましたのよ。
貴方もご存じの、貴子さんがお辞めになられたの。
その後釜ということで、業務引継ぎで貴子さんとお話をしました。
貴方のことも、話題に上りましたのよ。
もう、おのろけばかり。
少し、妬けましたわ。


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