長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第一部～（一） 貴男と居るとイライラするの！

彼は、一気に吐き出した。途中、口を挟もうとした麗子を制してまくし立てた。

「でも、僕には怒れない。麗子さんの気まぐれに振り回されても、僕にはどうすることもできない。
麗子さんは、ぼくの、ぼくの、その、何ていうか…」
彼は耳たぶまでも赤くしながら、最後は呟くように、小声となった。

「貴男は、私の気持ちがわかっていないのね。ほんとに、肝心なことがわからないのね。
まだわからないの！　私は、貴男と居ると決まってイライラするの！　
余りにも私の思い通りの男性で、手応えがまるでないの！　
どんな無理難題を言っても、いつも受け流してしまう。いい人ね、本当に。
私を失望させない、怒らせもしない。でもね、私は生身の人間なの。血が通っているの。
貴男はフェミニストね。でも、本質的には、女性を軽蔑しているの。
一段見下ろしているの。私のことも、よ。うぅん、貴男は意識していないでしょうけれど」

麗子の言葉の一つ一つが、彼の胸を突き刺した。

“麗子さんを軽蔑している？　馬鹿な！　お爺さまは、いつも仰ってた。
『女というものは馬鹿だ。男の庇護の下でしか生きられんのだ』
でも、ボクはそう思わない。
だって、お母さまは素晴らしい女性だもの。麗子さんだって、素晴らしい女性なんだ”

「私ね、大学を卒業後すぐに結婚するかもしれないの。うぅん、きっと結婚するわ。
相手の方は、貴男とはまるで正反対の方なの。全てにおいて、私を無視しているの。
“黙って後ろから付いてこい！”といった方なの。
その方と結婚したら、すごく幸せになるか、ひどく不幸せになるか、どちらかでしょう。
でも、私は幸せになれると思うの。少なくとも、貴男とよりは、ね」