昭和二十年八月十五日。
天皇の肉声による終戦の詔勅が、
発せられた。
歴史の転換点となる日は過去にも多々あったろうが、
この日は全日本国民に等しく衝撃を与えた。
政府及び軍人にとっては敗戦の日であったが、
一般国民にとっては終戦の日であった。
そしてこの日を境に、
価値観の大変動を余儀なくされたのだ。
顕著な例が、
それまでの教科書への炭塗りだった。
ページの大半が塗りつぶされ、
もはや教科書としての体を為していなかった。
神国日本・大和魂・皇祖皇宗の加護等々、
民衆の体に沁み付いている全てが否定された。
「汝、臣民ニ告グ・・・」
玉音放送直後から、
続々と皇居前広場に人々が集まり始めた。
自然発生的に砂利の上にひれ伏して、
皆が皆涙した。
そして朝な夕な、
皇居方面に対して最敬礼する日々を送っていた。
そんな国民の涙の中には、
悲嘆の涙、
悔悟の涙、
そして歓喜の涙があった。
「武さん、ありがとう・・」
「武さん、おおきに・・」
武蔵と同じ小隊の兵士等が、
武蔵の下に駆け寄った。
「あんたのお陰で、
戦地を免れたよ。」と、
口々に感謝の意を伝えた。
あくまで風評なのだが、
武蔵らを戦地に送ると、
便所掃除をする者が居なくなるから内地に止め置こう、
というものだった。
「あぁ、
明日からどうやって食べていけばいいんだよ。
俺は手に職を持ってねえんだ。」と、
そんなボヤキもそこかしこで聞かれた。
中には商店主やその関係者に、
雇い入れてくれと頼み込むむ輩も居た。
そんな中、
最も悲惨だったのは下士官だった。
日ごろの横柄さに、
兵士たちが反撃の狼煙をあげた。
逃げ惑う彼らを追いかけ回し、
将来の不安のうっ憤晴らしに走った。
「武さん、
あんたらが一番の被害者だ。
思いっきり、
殴んなよ。」
「なぁに
、こんな奴らが死んだところで、
誰も悲しむ奴は居ねえ。」
「いいよ、いいよ。
俺たちゃ
、もう忘れた。
なぁ、五平さん。」
「あぁ、そうとも。
もうみんな、
忘れた忘れた。」
武蔵の目配せに、
うんうんと頷きながら五平も同調した。
“便所掃除のお陰で、
どえらい情報を頂けたんだ。
感謝こそすれ、
恨む筋合いはねえわさ。”
声に出さない、
二人の本音だ。
天皇の肉声による終戦の詔勅が、
発せられた。
歴史の転換点となる日は過去にも多々あったろうが、
この日は全日本国民に等しく衝撃を与えた。
政府及び軍人にとっては敗戦の日であったが、
一般国民にとっては終戦の日であった。
そしてこの日を境に、
価値観の大変動を余儀なくされたのだ。
顕著な例が、
それまでの教科書への炭塗りだった。
ページの大半が塗りつぶされ、
もはや教科書としての体を為していなかった。
神国日本・大和魂・皇祖皇宗の加護等々、
民衆の体に沁み付いている全てが否定された。
「汝、臣民ニ告グ・・・」
玉音放送直後から、
続々と皇居前広場に人々が集まり始めた。
自然発生的に砂利の上にひれ伏して、
皆が皆涙した。
そして朝な夕な、
皇居方面に対して最敬礼する日々を送っていた。
そんな国民の涙の中には、
悲嘆の涙、
悔悟の涙、
そして歓喜の涙があった。
「武さん、ありがとう・・」
「武さん、おおきに・・」
武蔵と同じ小隊の兵士等が、
武蔵の下に駆け寄った。
「あんたのお陰で、
戦地を免れたよ。」と、
口々に感謝の意を伝えた。
あくまで風評なのだが、
武蔵らを戦地に送ると、
便所掃除をする者が居なくなるから内地に止め置こう、
というものだった。
「あぁ、
明日からどうやって食べていけばいいんだよ。
俺は手に職を持ってねえんだ。」と、
そんなボヤキもそこかしこで聞かれた。
中には商店主やその関係者に、
雇い入れてくれと頼み込むむ輩も居た。
そんな中、
最も悲惨だったのは下士官だった。
日ごろの横柄さに、
兵士たちが反撃の狼煙をあげた。
逃げ惑う彼らを追いかけ回し、
将来の不安のうっ憤晴らしに走った。
「武さん、
あんたらが一番の被害者だ。
思いっきり、
殴んなよ。」
「なぁに
、こんな奴らが死んだところで、
誰も悲しむ奴は居ねえ。」
「いいよ、いいよ。
俺たちゃ
、もう忘れた。
なぁ、五平さん。」
「あぁ、そうとも。
もうみんな、
忘れた忘れた。」
武蔵の目配せに、
うんうんと頷きながら五平も同調した。
“便所掃除のお陰で、
どえらい情報を頂けたんだ。
感謝こそすれ、
恨む筋合いはねえわさ。”
声に出さない、
二人の本音だ。
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