昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (十) 私は、雪の精なのよお

2015-02-13 08:46:50 | 小説
「そうなの、独り住まいなの。実は、私もよ。東北の田舎から、上京して来たの」
「だから、牧子さんの肌って、こんなに白いんだあ!」
大仰に体を反らせる彼に、牧子もおどけて返した。
「そうよお。私は、雪の精なのよお」

次第に打ち解け始めた二人は、言葉遣いも堅さが取れてきた。
「うわあ、自分で言うなんて。背負ってる、牧子さん」
傘の中で大笑いする二人を、すれ違う人達が訝しげに見やっていた。そのことで又、二人は大笑いをしていた。

「あぁあ、もうお別れだわ。このアパートなのよ、私。タケシ君は、もっと先?」
「へへ…。実は、通り過ぎました」
呆気にとられる牧子に対し、彼は肩をすぼめながら
「だって、牧子さんと別れるのがイヤで。ずっと、話がしたかったから。
ねえ、あそこでコーヒーを飲んでいかない?」
と、少し先の喫茶店を指さした。

「もう、いけない子ねえ。ごめんね、今夜はだめなの。
やりかけの仕事が、お部屋で待ってるの。
明日の朝、提出する書類なのよ」
すまなさそうな表情で、牧子が答えた。
すかさず彼が、口を尖らせた。
「嘘だぁ!誰か、良い男性が待ってるんだあ」

「違うわよ! ホントに仕事が待ってるの。じゃあさ。今度の日曜日に、時間を空けるわ。それでいいでしょ」
牧子は、少し気色ばんで否定した。そして、拗ねた表情を見せている彼に“仕方のない子ね”といった表情を見せた。
「やったあ!じゃあ、ぼくのアパートに迎えに来てくれる。
ぼくが来てもいいけど、牧子さんが困るだろうから」
満面に笑みを浮かべながら、”約束だよ”とばかりに、小指を差し出した。
牧子は、”はい、はい”と、小指をからませた。


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