(七)
「俺なんかも、似たようなもんさ。
さすがに奉公には出されなかったけれども、
毎朝とうふ売りに駆り出されたし、夜は夜でお袋の内職の手伝いだ。
軍隊に召集された時なんか、腹ん中で万歳してたよ。
さすがに皆の前では、かしこまってたがな。」
「武さんもですか? あたしもなんですよ。
他の者はね、陰で泣いてたんですがね、あたしは小躍りしましたよ。
これで銀しゃりが食えるかもしれないって。」
「まぁな。
お互い軍隊じゃ、殴られっぱなしだったけどな。
しかし、戦地にも行かずに済んだし、何より飯がなあ。
三度三度食えたってのは、ありがたかった。」
「ほんとにですな。
ところで、武さん。
今夜はえらくご機嫌のようですが、何かありましたか?」
「ふふん。」
鼻で笑う武蔵。
「ひょっとして、武さん……」
小指を立てて、武蔵の眼前でくるりくるりと回した。
「バッカヤロー! まだだよ、まだ。
小夜子は、そんな女じゃねえよ。
しかしまあ、なあ。」
「そいつは、何よりだ。
おめでとうございます!
なるほど、それで祝杯ですか。
そいつは、いいや。
明日にでも、皆に教えてやりますよ。
いやあ、大騒ぎですよ、きっと。」
「いや、待て待て。
皆には言うな。
小夜子のお披露目時に、俺から言うよ。
案外早く連れて行けそうだ。」
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