昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十四) 七と

2012-09-02 21:35:06 | 小説

(七)

「俺なんかも、似たようなもんさ。
さすがに奉公には出されなかったけれども、

毎朝とうふ売りに駆り出されたし、夜は夜でお袋の内職の手伝いだ。

軍隊に召集された時なんか、腹ん中で万歳してたよ。

さすがに皆の前では、かしこまってたがな。」


「武さんもですか? あたしもなんですよ。

他の者はね、陰で泣いてたんですがね、あたしは小躍りしましたよ。

これで銀しゃりが食えるかもしれないって。」


「まぁな。

お互い軍隊じゃ、殴られっぱなしだったけどな。

しかし、戦地にも行かずに済んだし、何より飯がなあ。

三度三度食えたってのは、ありがたかった。」


「ほんとにですな。

ところで、武さん。

今夜はえらくご機嫌のようですが、何かありましたか?」

「ふふん。」
鼻で笑う武蔵。

「ひょっとして、武さん……」

小指を立てて、武蔵の眼前でくるりくるりと回した。


「バッカヤロー! まだだよ、まだ。

小夜子は、そんな女じゃねえよ。

しかしまあ、なあ。」


「そいつは、何よりだ。

おめでとうございます! 

なるほど、それで祝杯ですか。

そいつは、いいや。

明日にでも、皆に教えてやりますよ。

いやあ、大騒ぎですよ、きっと。」


「いや、待て待て。

皆には言うな。

小夜子のお披露目時に、俺から言うよ。

案外早く連れて行けそうだ。」


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