(一)
翌々日、千夜子は意を決して電話をかけた。
会社に連絡を取り、そして自宅にかけ直した。
非常識だと思いつつも、背に腹は代えられない。
じり貧の店を立て直す切り札になるのだと、勢い込んだ。
「奥様の具合は如何でごさいますか?
気になっておりまして。 」
いかにも心配げに、声のトーンを落として話す。
普段はどちらかと言えば甲高い声で話す千夜子だった。
「いやあ、これは申し訳ないことでした。
お礼にも伺っておりませんで。
お陰さまで、随分と落ち着いてきました。
今、台所にいるんです。
呼びますか?」
怪訝な面持ちで、電話を受ける武蔵。
「いえいえ、そんなことは宜しいんです。
そうですか、ご快方に向かわれてみえますか。
そりゃ、良うございました。
店でのご様子がただ事ではありませんでしたので。」
「まったくでした、本当にありがとうございました。
適切な処置ですと、医者も言っておりました。
加藤と言う人物に、良い感情を持っておりませんので。
あ、いやいや。専務の加藤ではないんです。
同姓の者がおりまして……」
“何を話すんだ、俺は。
余計なことじゃないか。”
と、苦笑する武蔵だ。
しかし千夜子の声に、武蔵の琴線に響くものを感じた。
“中々、艶っぽい声じゃないか。”
(二)
「実は……折り入ってご相談がございまして……」
“自宅にまでかけて来るとは。
この女、余程にしたたかだな。
金の無心か? まずいことをした、そこまで気が回らなかった。
五平にしても珍しいことだな。
あいつもそれだけ慌てたということか。”
「実は、奥様から良いお話を伺いまして、その件で……
非常識だと言うことは、重々承知しております。
ですが、どうしても社長さまにおすがりしたく……」
切羽詰っている様が、手に取るように分かる。
「どんなことでしょう?」
「明日、お会いできませんでしょうか?」
突然に、すがるように両手を合わせる様が武蔵の脳裏に浮かぶ。
「明日ですか? うーん…そうですな……」
「申し訳ありません、無理なお願いを致しまして。
まだ日にちも経っていないというのに、ご無理を申しました。」
千夜子の溜め息に、艶を感じた。
“これは何とも…。
どうにも気になる声だ。”
と、浮気の虫が騒ぎ出した。
そろそろ銀座にでも足を伸ばすか、と考えていた矢先のことだ。
「待ってください、そうですなあ……。
明日というわけにはいきませんが、何やらお急ぎのようだ。
ニ三日後ということなら。
こちらから連絡しますよ。
小夜子の状態も良くなっていることですし。」
翌日、明日の夕方で良ければと、連絡を入れた。
「かしこまりました。
五時過ぎでございますね?
ご無理を申しまして、本当に申し訳ありません。
その時間に会社の方へお伺いさせていただきます。」
翌々日、千夜子は意を決して電話をかけた。
会社に連絡を取り、そして自宅にかけ直した。
非常識だと思いつつも、背に腹は代えられない。
じり貧の店を立て直す切り札になるのだと、勢い込んだ。
「奥様の具合は如何でごさいますか?
気になっておりまして。 」
いかにも心配げに、声のトーンを落として話す。
普段はどちらかと言えば甲高い声で話す千夜子だった。
「いやあ、これは申し訳ないことでした。
お礼にも伺っておりませんで。
お陰さまで、随分と落ち着いてきました。
今、台所にいるんです。
呼びますか?」
怪訝な面持ちで、電話を受ける武蔵。
「いえいえ、そんなことは宜しいんです。
そうですか、ご快方に向かわれてみえますか。
そりゃ、良うございました。
店でのご様子がただ事ではありませんでしたので。」
「まったくでした、本当にありがとうございました。
適切な処置ですと、医者も言っておりました。
加藤と言う人物に、良い感情を持っておりませんので。
あ、いやいや。専務の加藤ではないんです。
同姓の者がおりまして……」
“何を話すんだ、俺は。
余計なことじゃないか。”
と、苦笑する武蔵だ。
しかし千夜子の声に、武蔵の琴線に響くものを感じた。
“中々、艶っぽい声じゃないか。”
(二)
「実は……折り入ってご相談がございまして……」
“自宅にまでかけて来るとは。
この女、余程にしたたかだな。
金の無心か? まずいことをした、そこまで気が回らなかった。
五平にしても珍しいことだな。
あいつもそれだけ慌てたということか。”
「実は、奥様から良いお話を伺いまして、その件で……
非常識だと言うことは、重々承知しております。
ですが、どうしても社長さまにおすがりしたく……」
切羽詰っている様が、手に取るように分かる。
「どんなことでしょう?」
「明日、お会いできませんでしょうか?」
突然に、すがるように両手を合わせる様が武蔵の脳裏に浮かぶ。
「明日ですか? うーん…そうですな……」
「申し訳ありません、無理なお願いを致しまして。
まだ日にちも経っていないというのに、ご無理を申しました。」
千夜子の溜め息に、艶を感じた。
“これは何とも…。
どうにも気になる声だ。”
と、浮気の虫が騒ぎ出した。
そろそろ銀座にでも足を伸ばすか、と考えていた矢先のことだ。
「待ってください、そうですなあ……。
明日というわけにはいきませんが、何やらお急ぎのようだ。
ニ三日後ということなら。
こちらから連絡しますよ。
小夜子の状態も良くなっていることですし。」
翌日、明日の夕方で良ければと、連絡を入れた。
「かしこまりました。
五時過ぎでございますね?
ご無理を申しまして、本当に申し訳ありません。
その時間に会社の方へお伺いさせていただきます。」
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