昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十八)の三と四

2012-01-22 13:49:05 | 小説


すぐにも貴女との逢瀬を、と思いはするのですが、中々に難しいのです。
入省したての小生なれば、休みを取ることが叶いません。
伯父の引きがあればこその、逓信省なのです。
どうやら父親から文が届いているらしく、半ば監禁状態です。
通常ならば寮生活を送る筈なのですが、伯父宅での下宿となってしまいました。

小夜子さん、今の小生の願いをご存知でしようか。
恥ずかしきことながら、毎夜の如くに夢を見ております。
淫靡な夢に、苛まれております。
お許しください、小夜子さん。

毎夜、貴女の・・。
毎夜、貴女との接吻を試みております。
お怒りにならないでください。
あの折の、貴女からの接吻が、小生の頭から離れないのです。
あまりにも、甘美でした。

どうぞ、小夜子さん。
今しばらく、ご猶予をください。
必ず、貴女の元に馳せ参じます故に。
必ず、貴女を妻として迎え入れます故に。
                                       
貴女の下僕 正三より




正三からの恋文を読み終えた小夜子は、思わず小躍りした。
すぐにも逢いたいと言う気持ちを抑えることが出来なかった。
早速にも返書をしたためようと思ったのだが、封書にも便箋にも住所の記載がなかった。

逓信省宛に、とも考えてはみたが、
所属部署が分からぬ郵便物では正三に届くかどうか怪しく思えた。
“書き忘れかしら・・それとも、意図してのことなの?”

小夜子は、恨めしくその便箋を見つめた。
“どうして、逢いに来てくれないの・・。
妻として迎えてくださる気持ちがお有りになるのなら、万難を排してでも・・。
あの方なら、きっと、来て下さるでしょうに。”

突然に、小夜子の脳裏に武蔵が浮かび上がった。
あの夜以来、三日と空けずに通ってくる武蔵だった。
女給たちが多数押し掛けても、
小夜子だけとの会話を楽しんでいく。
そして三度に一度は、小夜子を連れ出した。
夜もそうだった。
「小夜子ぉー、居るかぁー!」
フロア中に響き渡る武蔵の声に、顔を真っ赤にした小夜子が武蔵のボックスに来た。


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