昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (三) 何かお礼をしなくちゃね

2014-10-10 08:36:27 | 小説
二人並んで、お互い頷き合いながら店に戻った。
「でも、ケンちゃんは福の神ね。何かお礼をしなくちゃね」
「そうですね、ホントに」

そんな会話が終わるや否や、井上がやって来た。
外商部の同期に、
「今夜あたり、部長が行くようだよ」
と耳打ちされていたのだ。
で、部長の帰還を確認してから、ママに声をかけたのだ。

「ママ、どうだった?」
「あら、ケンちゃん。見てたの?」
「うん、うまく行ったようだね。良かった、良かった」
「お陰様で、ね」

ママは聡美を店に行かせると、井上と連れだって近くのバーに入った。
息抜きに利用している、五十過ぎの女性が一人で営業している店だった。
二坪ほどのカウンターのみの店だった。

「大ママ、お早う。少し休ませてえ」
「あいよ!」
「ここは私の秘密のお店なの。疲れた時なんかに、ちょっとお店を抜け出したりしてるの。
だから聡美だけなの、知ってるのは。ケンちゃんには特別に教えてあげる。
ねえ、大ママ。今夜はお祝いなの、一緒に呑んでよ」

差し出されたビールで、三人の乾杯は何度も続いた。
「お礼しなくちゃ、ね」
と言うママの言葉に対し、冗談交じりの
「そうだな、愛人にでもしてもらおうかな」
から、二人の関係が始まったのだ。

「今夜は、どうする?」
ママが、井上の太ももをつつきながら、目で合図した。
井上は、大丈夫だとばかりに、その手を軽く叩いた。


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