昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十七) 不安の高まり

2013-10-15 19:53:20 | 小説
(六)

不安の高まりから、武蔵の腕をぐっと握った小夜子だった。
強張った表情を見せながら車に乗り込んだ小夜子だった。

「なんだ、なんだ。
敵討ちに行くんじゃないぞ、おいしいものを食べに行くんだから。

肩から力を抜いて、大きく息を吸い込んでゆっくり吐け。
そうそう、肩を上下させて。

どうだ、落ち着いたか? きれいだぞ、小夜子。
みんなびっくりだ、お姫さまだってな。
なあ、運転手君。
可愛いだろう、俺の小夜子は」と、大はしゃぎする武蔵だった。

「はあ、まったくです。
お姫さまですか、確かにです。

東映の時代劇映画のお姫さまですよ、本当に。
いやあ、ありがたいです。

私も今日一日楽しい日になりそうです」
と、運転手も話を合わせた。

楽しい一日になる筈だった。
列をなして押し寄せる男たちが、口々に小夜子を褒めそやす。

そして手の甲に軽くキスをして跪いていく。

映画[ローマの休日]の女王との謁見シーンを、小夜子は思い浮かべた。
しかしこのパーティは、到底許せるものではなかった。


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