昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(七十六) 遠いのね

2013-12-28 17:50:21 | 小説
(三)

「遠いのね」

「もうすぐですから、はい。
病院に近いものですから、どうしても引越すわけにいかなくて。
母が通うにはどうしても近い所でないと…」

申し訳なさそうに、竹田の声が小さくなっていく。

「なに言ってるの、そんなの当たり前でしょうに」

ぴしゃりと、小夜子の強い声が飛ぶ。

「あ、あれ、姉です。姉が手を振ってます」

やっと現れた援軍を誇示するように、竹田の晴れ晴れとした声が車中に響いた。

「そんな大きな声を出さなくても。
お姉さん? あら、ほんとだわ。
お姉さーん! お姉さーん!お姉さーん!」

車の窓から身を乗り出すようにして、小夜子も手を振った。

「小夜子奥さま、危ないですから。
あまり乗り出さないでください。
怪我をされては、社長に叱られますし」


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